Arezzo Antiques Fair

Arezzo Antiques Fair

By IIDAKENTARO

アレッツォのアンティーク市について

イタリアのアレッツォは、トスカーナ州東部に位置する小さな街です。中世の城壁に囲まれ、息をのむほど美しい歴史的な建ち並ぶ様子は、ロベルト・ベニーニ監督の映画「ライフ・イズ・ビューティフル」の撮影舞台となった街と言えばイメージが湧くかもしれません。芸術や工芸に歴史的な背景を持ち、イタリアンクラフトの本質が息づく場所といえる地域です。金細工や織物産業で繁栄を極めた街として知られ、現在でもその職人技の伝統は色濃く残されています。歴史への敬意と職人たちへの誇りを感じることができるイベントのひとつが「アレッツォのアンティーク市」。毎月第一日曜日とその前日に開催されるイタリア最大級のフリーマーケットで、町の中心であるグランデ広場(Piazza Grande)から周囲の小径のすべてに露天が並ぶ様子は巨大な迷路のようです。

 

圧巻の物量とバラエティ!

旧市街の入り口からすでに露天の行列ができていて、買うつもりがなくても独特なムードに心が弾みます。ともかくあらゆるモノが売られていて、家具や食器にはじまり、洋服、時計、彫刻、蛇口、アイロン、絵画、書籍など、年代もクオリティも様々です。店主は骨董の専門家やプロの目利きも多く、質問すると意外な時代背景や作者の経歴に触れることもあり、真贋を問わずついつい手に入れたくなってしまいます。特に、愛らしい見た目でありながらクリエイターの熱い想いや確かな技術が感じられるアイテムに出会うと、二度と出会えないのではないかという想いがよぎります。そんなときはカフェで一息入れて、心を落ち着かせましょう。ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画「聖十字架伝説」やフィレンツェのウフィッツィ美術館を設計した建築家ジョルジョ・ヴァザーリの設計をベースにした巨大なロッジア(回廊)宮殿などなど、見所はたくさんあります。

 

飯田 健太郎より

このフリーマーケットの起源は、実に1968年にさかのぼります。当時のイタリアでは近代化の波が急速に伝統的な工芸や生活様式に影響を与え、若い世代は都市へと流出し、古い家具や骨董品、手工芸品は価値を失いつつありました。失われつつある文化的遺産を救い、再評価する社会運動としてこのマーケットは誕生しました。革細工、陶芸、木工、金属加工、ガラス工芸など、伝統工芸の宝庫として知られているトスカーナ地方において、世代を超えて受け継がれる「ボッテガ(工房)」の息吹をいまに伝えるイベントでもあるのです。街の隅から隅まで広がるアンティークマーケットを歩いていると、職人たちの生きた歴史に触れたような気持ちになります。店主たちの会話から想像を膨らませ、自分の審美眼と直感を頼りに一期一会を吟味することは、イタリアの人生哲学に学び、生活の美学に触れることができる究極の旅行体験でした。/飯田