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鷲巣 恭一郎 WASHIZU KYOICHIRO
鷲巣 恭一郎について
静岡で「鷲巣染物店」の五代目も務める鷲巣 恭一郎さんは、静岡に伝わる「駿河和染」の技法「お茶染め」で作品を作っています。静岡の基幹産業である「お茶」の製造工程で廃棄される部分を使った「お茶染め」の研究を始め、煮出したあとの茶殻は堆肥に加工して循環させるなど、アップサイクルな取り組みがユニークです。
「静岡は古くから型染めや手描きの紋染めが技術として残っており、実家も染物屋を営んでおります。また、お茶は静岡を代表する産業で、どちらも文化として大切に育て、残していきたいと思っていました。父から染めの技術を学んだ私は、あるときお茶農家を営む先輩から加工工場で廃棄される茶葉『出物』をいただきました。飲むことはできませんが、草木染めのようにお茶の色を布に定着できないかと考えて研究したのがお茶染になります。2年ほど試行錯誤を繰り返し、色味や染めの濃さなどが理想の風合いが完成しました。黄ばんだTシャツを染め直したり、のれんを染めると長く使えるだけでなく、生地がより丈夫になり、風合いも増します。染めたあとの出がらしは畑の肥料にもなりますし、地元の産業を使って持続可能な取り組みを広げていきたいと思っています」
東海道五十三次の「丸子(まりこ)宿」について
鷲巣さんが工房を構える「駿府の工房 匠宿」は、宿場町としても知られる丸子泉ヶ谷地区にあります。日本最大級の伝統工芸体験施設として2021年にリニューアルされ、カフェやショップ、ギャラリー画素漏電投稿芸の複合施設です。また、4つある工房では現場の第一線で活躍するプロの作家が工房長を務め、駿河竹千筋細工・和染・木工・漆・陶芸などのさまざまな工芸に触れることができます。鷲巣さんは染工房の工房長として茶染のワークショップなどを手掛け、館内の至る所で作品を目にすることができます。
茶染作家として
一方で、茶染の作家としても活動している鷲巣さん。お茶を煮出して布を染め、木酢酸鉄液を混ぜて再度煮る。乾かしてまた布をお茶で煮て、布を濃い茶色に染めていきます。その布にチタンの媒染剤を用いて型を抜いていくことで、味わい深い図柄が完成します。そのコンセプトは『茶園俯瞰図』といい、茶畑を上空から見下ろした幾何学的な模様が特徴的です。「茶畑を上空から眺めたような景色を表現したくて、型染めでありながら輪郭を少し揺らして自然の風景に近づけている」と話すその作品は、迫力のある柄におもわず惹き込まれます。弟子の前田 結嬉(MAEDA YUKI)さんとチームで取り組んだ巨大な作品は、国画会が運営する日本最大級の公募展「国展」に2023年と2024年に続けて入選しました。
鷲巣 恭一郎より
最初は地元の伝統的な産業と工芸を融合させることで、自分だけの技術を追求したいと思っていました。しかし、文化として普及させなくては茶染の存在価値は認知されない。そこで、父から教わった型染めと茶染を融合させた作品を作り始めたのですが、いまでは古い布を染め直す文化であったり、茶染という技術が人と人の交わるプラットフォームになることも願っています。その普及のために、作家としての自分たちの価値を高めていく。まずは茶染の魅力を体験してもらい、ゆくゆくはお茶の産業と茶染の文化が一緒に広まってくれたら嬉しいですね。先人が生み出し、積み重ねてきた伝統と技術を受け継ぎ、自分なりに工夫をしながら少しでも前に進めていく。そうして文化を育て、次の世代に繋いでいくことで新たな伝統となる。その一助になれるように精進していきたいと思います。/鷲巣